琥珀にとっては意味ないからね、もう。
遠く離れたアメリカで世界デビューを飾ったあの子が琥珀の生きている意味のようなもので、こいつにとっての特別な存在。
彼女が今年から世界を選んだことで、俺たちがずっと続けていた“とあるバンド”も、伝説のまま終わってしまった。
「頼だって僕に幻滅してるでしょ」
「してるよ」
「ならもう…、無理に関わろうとしなくたっていいから」
「それは無理だって」
「…なんで」
この状況見てわかるだろ───と、俺は担任から渡されたプリントを握らせる。
お前に何かあると俺に回ってくるんだよ、昔から。
それが果てしなくマイペースな幼なじみを持った俺の役目ってやつか知らないけど、できることなら俺だって勘弁して欲しい。
「そんなに好きなの?…志音(しおん)のこと」
「好きだよ」
俺と琥珀にはもうひとり、幼なじみがいた。
その子は女の子で、俺たちが11歳のときに隣町から引っ越してきた子。
それが、のちに琥珀が夢中になってはやまない歌姫─志音─だった。