「人差し指と中指はこっち。これがスライダーの握り方」
「詳しいんだね頼くん!」
「…まーね」
ふっと、すぐうしろで笑う頼くん。
少しだけ、ほんのちょっとだけ、近すぎる距離がなんとも言えなくて。
「覚えた?」
「へっ?」
「握り方」
わたしより低い声、わたしより高い身長、わたしより大きな手。
これがたぶん、本物の男の子なんだ…。
「っ、覚えた…!」
わたしからサイレンが鳴り響く前に身体を離した彼は距離を取った場所、「投げてみな」と、キャッチャーミットを構える。
「こんなので本当にボールが曲がるの?」
「そ。リリースするときは中指に力を入れながら押し出すイメージで」
「りりーすってなに?」
「……ボールを離すときってこと。これ英語の問題なんだけど。まあとりあえず、騙されたと思って。よし来い」
「いくぞーーっ」
全力で投げたところでもちろん、スピードはそこまで無く。
80キロほどしか出てないと思うけれど、頼くんいわく、“それが逆に緩急を作って技のひとつになる”のだと。