☆☆☆

「あんなの普通じゃない。まるでゾンビだ」


廊下に出ると騒ぎは幾分か落ち着いていて、歩けるスペースができていた。


「そうだよね……」


自分も今すぐにでもあんな風になってしまうかもしれない。
例えば目の前を歩いている見知らぬ生徒の首すじに噛み付くことができれば、どれだけ満たされるだろうか。


「フォークとナイフを使ったって、食べてるのは人の肉だぞ? 信じられない」


圭太が溜息と同時に左右に首をふる。
同意してあげたかったけれど、今の私には彼らの気持ちの方がよく理解できる。
人の眼球はおいしい。
みずみずしい。

その言葉を何度も思い出して、何度も唾を飲み込む。
気を紛らわせるためにどれだけ水を飲んでみても、癒やされることがない。
いつの間にかペットボトルの中は空になってしまっていた。


「ごめん、ちょっと水を入れてくるね」


圭太に言いおいて近くの女子トイレのドアを押し開く。
途端に中から鉄の匂いが流れ出てきて私は目を向いた。
女子トイレの床に倒れている生徒がいる。