「そう? 美味しいのに」

他の生徒たちも先生の体にナイフを突き立てて、その肉を美味しそうに頬張っている。
それはまるで高級レストランで食事をしているような、優雅さだった。
噛みちぎって引きちぎるような野蛮さは少しも感じられない。

こんな風に食べるのであれば大丈夫じゃないかという思いがふと脳裏によぎった。
なにも口の周りを血に濡らしながら食事をする必要なんてない。
感染者にだって自我はあるんだから、ちゃんとした振る舞いができる。


「薫、行こう」


圭太に言われて私は「え?」と聞き返してしまった。
圭太は蒼白で、また気分が悪くなったのか胸の当たりを押さえている。
それを見てようやくこの光景に気持ち悪くなってしまったのだと理解した。


「そ、そうだね」


私は慌てて立ち上がる。


「あれ? 一緒にいればいいのに」


男子生徒の言葉が甘い誘惑のように感じられる。
ここにいればきっと私はうまくいく。

みんなで獲物を捉えて、上品に食事を楽しむことができるだろう。
でも、無理だった。
圭太は感染していない。