「ところで、お腹は減ってない?」


小首をかしげて質問されて私は思わず頷きそうになる。
だけど圭太がいる手前「大丈夫だよ」と、答えておいた。


「そっか。これから食事をする予定だったんだけど、君たちはまだ大丈夫そうだね」


そう言われて他に残っている子たちが、一箇所にとどまって動かないことに気がついた。
私と圭太が教室へ入ってきたときに、少し視線を投げてよこしただけだ。


「食事って?」


好奇心からそう質問した。


「見てみる?」


そう言われて私と圭太は素直について歩く。
みんなが集まっている場所へ移動してくると、その中心に猿ぐつわを噛まされた男の先生が転がっているのが見えた。
確か、このクラスの担任だ。

先生は猿ぐつわを噛まされているだけでなく、手足をロープで縛り上げられている。
視線がぶつかった瞬間くぐもった声が漏れ出た。
『助けてくれ!』と言っているのがわかる。

だけど私の体は硬直してしまって少しも動くことができなかった。


「先生、助けを求めても無駄だよ? この2人だって感染してるんだから。でも先生のことは食べないって言ってるから、よかったね? きっと、感染してまだ時間が経ってないんだろうね」