けれど、感染の可能性があるとして撃ち殺されてしまったんだ。
思い出して下唇を噛みしめる。
悲しい気持ちと同時に、死体から流れ出した血の匂いを思い出して、また空腹感を刺激される。

朝ごはんはちゃんと食べてきたのに、どうして……。
圭太にこの異様な食欲を悟られないように、必死に別のことに集中する。


「病院へ行けば、治るかも知れないだろ。あんな風にはならなくてすむかもしれない」


圭太は懇願に近い声色でそう言った。


「でも、ワクチンも治療薬もまだないって書かれている。出現してから間もないウイルスだから、まだなにも研究が始まってないんだよきっと」


新薬ができるまでには何年も時間が必要だ。
一朝一夕でできるものじゃないことくらい、わかっている。


「ウイルスが突然出てきたなんておかしいだろ。きっと、なにか原因があったはずだ」


圭太はそう言って頭を抱える。
もともとあったウイルスが変異したのか、それとも全く新しいウイルスなのか。
そのウイルスは一体どこから来たのか?
まだまだわからないことだらけみたいだ。


「くそっ。父さんならなにかわかるかもしれないのに」


圭太の父親はウイルスの研究室に努めている。