微かに聞こえてくる圭太の声。


「どうして? 残ってるのは圭太だけだよ?」

「俺は……自分の父親のした後始末をする必要があるから」


そう言って窓に手をのばす。
服の袖から見えた圭太の腕には赤い斑点がある……が、それはこすれて滲んでいた。
私は驚いて息を飲む。


「圭太、その斑点……」

「あぁ……さっき、トイレで書いてきたんだけど。汗で滲んだんだな」


苦笑いを浮かべる圭太に私は目を見開いた。
さっきトイレで書いてきた?
ということは、その斑点は偽物ってこと?


「圭太は感染してないんだ!」


嬉しくて直へ向けて叫ぶが、直は私から顔をそむけてしまった。
ふたりともどうしてそんな悲しそうな顔をするの?
圭太は感染していなかったし、ワクチンは成功していたのに。
そのとき、圭太がライターを取り出した。


「逃げろ」


くぐもった声が聞こえてくる。