「どういうこと? 圭太も感染してたの?」


ずっと私と一緒に居たのに、今更になって感染するだろうか?
もちろん個人差はあるけれど、ワクチンに効果がないだなんて……。
圭太がこちらに気がついて一瞬眉をさげた。
その悲しそうな表情に私は胸の奥に得も言われぬ嫌な予感を抱く。


「薫、直」


近づいてきた圭太が私達の前で立ち止まる。
逃げ惑う人々の中には研究者たちの姿も見える。
もう、施設内はパニック状態だった。
そんな中、圭太が私の頭を撫でた。
優しく丁寧に慈しむように。

なぜ今そんな撫で方をするの?
そう聞きたいけれど、なぜか怖くて聞くことができなかった。
圭太は次に直に顔を近づけて、何事かとささやく。
直は険しい表情で頷く。


「みんな逃げろ! ワクチンは失敗したんだ! ここにいても感染する!」


圭太は再び叫びながら研究室を歩き回る。


「圭太っ」


呼び止めようとした私を直が止めた。
そして痛いくらいに腕を掴まれる。