あれだけ騒がれていたものが一瞬にして消えてしまった。
愕然として全身の力が抜け、スマホを床に落としてしまう。


「国はもうすでに隠蔽工作を始めている。ウイルスについてはすべて誤報で、街に起こったできごとは季節性の風邪が変異したものだったとでも言い始めるさ」


この地獄のような惨状が、たったそれだけのことだったと片付けられる?
そんなバカなことがあっていいなんて思えない。
だけど、ただの高校生である私になにができるだろう。
国を相手取って訴える?

確実に負けるに決まってる。
ウイルスの実験が終わればこの街はどうなってしまうんだろう。
もしかしたら、なにもかもを隠蔽するために爆破されてしまうかもしれない。
私達の育ってきた街が、消える……?


「とにかく、俺たちに薬をくれ。今すぐにだ!」


直が叫ぶ。
また空腹感が襲ってきたのかさっきから落ち着きがなくなってきていた。


「薬は研究施設にある」

「それなら連れて行け!」


包丁を突きつけ、直はそう怒鳴ったのだった。