「なんのために私達研究員が必死に働いてこのウイルスを作ったと思う? 薬を販売するためだろう!」


ドンッ! を床を足で鳴らして怒鳴る。


「金のためかよ」


直のつぶやきに父親の表情が更にこわばる。


「お前たちはなにもわかってない。これは地球規模の研究結果なんだ。この街ひとつが壊滅するくらい、どうってことはない話なんだ」


どうってことはない……?
その言葉に外で倒れていたユカリの姿を思い出す。
豹変して人肉を食べ始めた麻子。
学校の廊下は血まみれで、音楽室には死体の山ができていた。

それが、どうってことはない?
怒りと悔しさがこみ上げてきて、拳を握りしめる。
あまりに強く握りしめすぎて爪が手のひらに食い込んでいく。
その痛みのおかげで理性を保てているようなものだった。


「この街はただの実験台に過ぎない。壊滅後はウイルスなんてなかったかのようにニュースで流れ始めるだろう」

「そんなことになるはずない! これだけの犠牲を出しておいてなに言ってんだ!」


直が吠える。
しかし父親は動揺しなかった。