「………我らで一斉攻撃して、結界を破れると思うか?」



「結界術に長けた水の家。簡単ではなかろう」



「破らねば心中じゃな」



「死んでもごめんだ!」



当主達が脱出について相談する中、闘争心を失わない者もいた。



「ただでかいだけだろ? なにビビってんだよ」



雷地は、剣先を巨人に向けて、放つ。



「可愛くない……」



柚珠が、土から伸ばした太い蔦が、ブーツのように足を締め上げる。



「俺とイワナガヒメの初仕事だ!」



常磐は、イワナガヒメの作り出した巨岩を投げた。



「フウゥゥゥゥ………」



巨人は、その全てを受けたうえで、溶かした。



「何?」



「どーゆーこと?」



「初仕事にケチがついてしまった」



蔦を溶かしたその足で蹴りかかってくるのを各々回避する。

風圧で屋敷の隅まで飛ばされたが、着地地点に霊力を噴射する事で衝撃を和らげた。



「毒だ……」



「毒?」



近くにいる響のつぶやきを拾う。



「触れたものを溶かして、攻撃を無効化している……」



巨人の標的が私達に移る。

当たれば溶けると言うことなら。



「つまり、逃げるしかないってことかな?」



解決策のなさに、顔が引き攣った。

足裏が迫る。



「そういんたいひー!」



ヨモギ君の命令で、実験動物達は散る。

しかし、ほとんどが間に合わない。


少しでも時間稼ぎにと。

イカネさんの雷も、アメノウズメの風刃も、ヨモギ君の放つ火の玉も、シュポッ、と消された。



「ツクヨミさん!」



「りょーかいっ!」



両手をかざし、真上に上げる。

巨人の足裏が地に着くことはなく、全員生き残る。


予想通り。

形あるものが溶かされるなら、形ないものの影響は受ける。

私は重力操作で、巨人を空中に浮かせていた。

だけど、やはり巨人。

質量がでかく、もちろん重い。

神力がごりごり削られていくのがわかる。



「ツクヨミ!」



「長くはもたない、なんとかしてくれ!」



駆け寄る先輩に、手早くお願いする。

あくまで、ツクヨミノミコトが力尽きるまでの時間稼ぎにしかならないこの状況。

全神力を浮遊に注ぐため、現状を打破する一手を引き寄せる余裕がない。



「なんとかって……」



「僕が処理する」



先輩を遮って、前に出たのは響。



「もともと、神水流家の不始末だから。僕がやるのが筋ってもんでしょ……」



ヘッドホンを装着すれば、霊力が一段、増幅する。



「引導を渡してやる……」



響は大きく息を吸い、歌った。