神水流当主の体が膨張するように膨れ上がり、空の小瓶が手の中で割れる。
みるみるうちに、十階建てのビル相当にまで巨大化した。
「なんとっ!」
「見苦しいぞ、神水流よ!」
「我々を殺して口封じするつもりか、愚かな」
「貴様にやられるほど弱くはない」
剣が、蔦が、岩が、炎が、巨人となった神水流当主の顔面を襲う。
ヒュッ。
という間の抜けた音を立てて、それらは消えた。
「なにっ!?」
「無傷だと!?」
「遠いから、威力が落ちたのか……」
「クソッ………。そこの仮面の者! あれを退治せよ!」
火宮当主が、先輩に命令する。
「は………あぁん?」
反射的に頷きかけた先輩だったが、切り替えてメンチ切る。
長年に渡り刷り込まれた関係は、そう簡単に抜け出せない。
「なんだその態度! 火宮家に入れてやらんぞ!」
「いらねぇよクソ親父!」
「クソ親父だと……っ! 我が誰かわかって言っておるのか……!」
「テメェこそ誰に口きいてやがると思ってんだ!」
顔を突き合わせ、至近距離での親子喧嘩。
「我は貴様の父親ではない!」
「…………そうだろうよ、すっとこどっこい!」
売り言葉に買い言葉。
そんな彼らの頭上に、巨人の足が迫る。
「交渉決裂だ! 無能な息子がいなくなったところに、貴様を迎えてやろうと思ったが、残念だったな!」
「望むところだ!」
二人が逆方向に飛び退き回避。
先程まで彼らがいたところを巨人が踏みつけた。
巨人が動き出したところで、ほとんどの者が逃走を図るが、そう都合良くはいかない。
「なんだ、見えない壁が!」
「空もダメだ!」
塀を越えようとしても、見えない何かに邪魔されて出られないでいた。
それは、神水流家の部下も同じ。
「ここは神水流の屋敷。これくらいの仕込みはあって当然か……」
「生きて帰す気はないらしい」
「あれを倒さないとならないようだ」
「まったく、手間のかかる……」
当主達は顔を引き攣らせながら、それを見上げ。
部下や鬼は、巨大なそれを絶望の眼差しで見上げる。
「もう嫌だ!」
「来るんじゃなかった!」
「お前らのせいだ!」
当主達の攻撃が一切効かなかった、という事実のせいで、力のないものは恐慌状態に陥る。
門の周囲に固まる彼らを、巨人による蹴りが襲う。
砂利のように吹っ飛ばされた彼らは、蹴られた先に叩きつけられた。
ただ、大きいというだけで圧倒的。
ただの踏み潰しや蹴りが必殺の攻撃だ。