「わ、我は知らぬ! そこの奴が勝手にやっていたことだ!」



「当主様……!」



研究員は伏せたまま、顔を絶望の色に染める。



「我々は、当主様の命令で……!」



「黙っておれ。この裏切り者が!」



「そうなのかい? そこの神水流の者よ」



別の家の当主が、近くにいる下っ端に問いかける。

彼らの目配せは一瞬だった。



「全ては、当主様の命令です!」



「当主様の命令により、あやかしを捕らえておりました!」



「捕らえたあやかしを解剖したり、実験したり、新たな薬を開発したり、全ては当主様の命令です!」



口々に現状を訴える。

保身で当主を売った者もいるだろう。

遠くの方では、安堵の顔を見せる者もいた。

不本意な者にとっては希望だったのかもしれない。



「どいつもこいつも!」



顔を赤くして怒りに震える神水流家当主。

彼の態度で、下っ端の言うことは真実であるとわかる。

実験動物達は、恨みある神水流家の者を威嚇しながらも、飛びかかることはしなかった。

ヨモギ君がしっかり手綱を握っている。

マシュマロの効果、すごいな。

神水流家当主は、吹っ切れたように笑いだした。



「実験、素晴らしいではないか! 妖魔どもを捕らえ、日々研究し、奴らの弱点を暴いた! そして、より効果的な討伐の方法を見つけたのだ! 我々神水流家のもつ情報を欲した貴様らに、我の行動を罰する資格はない!」



堂々と宣言する神水流当主に、押し黙る人間達。

そこにイカネさんが、ため息をつきながら介入した。



「そこまでなら、文句はありません。病気に対する薬を開発するのが誉められるのと同じこと。囚われたものに同情こそすれ、敵対するのであれば誰しもが行っていること。問題は、その先。混ぜられて、人工的に作られたものについて、お聞かせ願いたい」



「なんのこと……」



「彼らについて、ですよ」



ヨモギ君の指示により、進み出る彼ら。

ワニの頭、犬の体、鳥の羽、蠍の尻尾。

兎の頭、馬の体、蝙蝠の羽、鼠の尻尾。

獅子の頭、蛇の体、蜘蛛の足。

亀の甲羅から生える8本の蛇の首。

鶏の尾が3匹の蛇の頭。

他、無数の証拠は目の前にある。



「それは、勝手に発生したのだ。我は関知していない。いやはや、生物の進化には驚かされるよ」



なおも言い逃れを続ける神水流当主。

イカネさんは私の持つ資料をペラペラめくる。



「こちらの資料には、制作から販売にいたるまでのマニュアルもございます」



途端に沸き出す他家当主たち。



「なんと!」



「神水流よ、それはまことか!」



「もう言い逃れはできませんな」



「ふははっ! おとなしく罪を認めよ!」



火宮当主は嬉々として言う。

追及の標的が変わって嬉しいんだね。



「役立たずども……余計なものを残しおって………」



神水流当主は懐から小瓶を取り出し、一気にあおった。



「皆殺しにしてやる!」



唸るように言葉を発した瞬間、神水流当主の霊力が爆発的に上昇。

彼を中心に起こる強風が、周囲のものを吹き飛ばす。