普通の人なら、家族がこんな目にあって平気なわけないよね。
妹の為なら姉は犠牲になるべき。
という考えが透けて見える。
「サクヤ、ごめんなさい………」
しかし、イワナガヒメの答えは変わらない。
咲耶がキッと睨みつけても、イワナガヒメはその大柄な肉体をより大柄な常磐の背に隠す。
「チッ、役立たず」
イワナガヒメは身を震わせ、常磐は怒りの視線を咲耶に向ける。
しかし咲耶はどこ吹く風。
自力での脱出を試みて、植物を生やそうとするが、氷に触れたところから凍って砕けた。
「ハルくぅん………」
隣の陽橘に媚びる。
「咲耶、大丈夫だから。絶対に僕が守るよ」
咲耶はその返事に、媚びた顔のまま、嘘つきと唇を動かした。
寒さで動きを鈍らせたのは柚珠も同じだったが、彼は防御に集中することで、アメノウズメの猛攻を凌いでいた。
アメノウズメは、ちらと醜態を晒す咲耶に視線をやってから、正面の分厚い蔦の絡まりを見据える。
「なかなかやりますね、人の子よ」
「あんなのと一緒にされるのは心外だって。わかってくれて嬉しいよ」
同じような能力持ちとして、柚珠も咲耶のことは気にしていたらしい。
アメノウズメは再び距離を詰める。
「こんなの、ボクのスタイルじゃないんだけどぉ。………勝つためなら仕方ないよねー」
アメノウズメの踏み込もうとした足場が棘に変わった。
気付いた彼女は即座に身体を捻り、鉄扇を支えに跳ぶ。
空中に投げ出された形の彼女を種が襲うが、全て弾くか躱され、天井を蹴って距離をとった。
「素晴らしい。畳を変化させましたか」
アメノウズメは無理に動かして些細な違和感を覚える手首を回し、好戦的に笑った。
柚珠も蔦の盾の向こうで同じような顔をする。
彼は、すでにこの場にあるものに霊力を流し、命令を与えたのだ。
成長しろ、と。
ただでさえ、植物使いには厳しい環境。
冷気のせいで普段より多くの霊力を消費する。
もとからあるものを使うことにより、一から成長させるより少ない霊力で発動が可能となり、その分強度に回したのだ。
少ない霊力で最大の効果を得ることに成功。
何より、奇襲に成功した。
咲耶に比べて圧倒的に能力を使い慣れている。
華やかさを捨て、なりふり構わず勝ちを狙う彼は強い。
「負けた時の顔って、可愛くないもんね」
可愛くウインクを決める柚珠の霊力が一段強まる。
アメノウズメは鉄扇を構え直した。