氷のような透明感のある、とても美しい微笑みを浮かべ、オモイカネは咲耶にゆっくり近づく。

恐怖心を煽るように、わざと、ゆっくりと。

威嚇するように、膨大な神力をまとって。



「ひぃっ!」



顔を引き攣らせ、咲耶は陽橘を盾に後退る。



「お、おい、落ち着けって。……咲耶がいったい何をしたっていうんだ」



陽橘は怯えながらも咲耶を守ろうとする。

普段であれば賞賛される行為だが、時と場合と相手が悪かった。



「自覚はないのですね。そうでしょうね。………顔だけの女が」



笑みは崩さず、吐き捨てるように溢すそれは、冷え切っている。

陽橘と咲耶はヒュッと息を詰まらせた。

オモイカネは作り笑顔を崩さない。

無表情にもとれるそれは、より恐怖心を煽る。

今世の姉を、前世の姉を、蔑ろにする咲耶に、言いようのない怒りを覚えている。

それを隠す笑顔の仮面だ。

ひとしきり、彼らを見下ろしてから、ふいと踵を返す。



「さて。わたくしはご主人様を追います。ここは頼みましたよ、先輩」



「………………行ってこい」



オモイカネが、我慢できずに息の根を止めてしまいそうなのを察した桜陰は、雷地の剣を全て叩き落としてから離脱の許可を出した。



「はっ……ははっ………ぼ、僕たちに恐れをなして逃げるんだね、腰抜け。所詮神は人を殺せない……っ!」



背を向けるオモイカネを挑発する陽橘の顔の横スレスレに氷柱が突き刺さった。

それから、脇、肘、腰、股下、膝と氷柱が刺さる。

身動げば触れる位置。

近くにあるだけで凍えるのに、触れればそこから凍ってしまいそうな攻撃性を孕む冷気。



「………!」



声にならない悲鳴をあげて、陽橘は固まる。

オモイカネは興味を無くしたように、今度こそ出て行った。



「お姉ちゃん! 助けて!」



同じように氷柱に囲まれた咲耶が、庇護欲をそそる声で叫ぶ。



「冷たいー! いやーっ!」



わざとらしく叫ぶ彼女を、少し離れた所にいる常磐が冷めた目で見ていた。



「悪いが、イワナガヒメは俺と契約した。お前を助ける義理はないな」



「サクヤ、ごめんなさい………」



「貴様……!」



咲耶は凶悪な顔で常磐を睨みつけるが、常磐は気にした風もなく泰然としている。



「この超絶美少女が助けてって言ってんのよ! 何を差し置いても助けるのが当たり前でしょ!」


「知らんな」



聞いてないのに答えてくる常盤は無視。

咲耶は標的を一人に絞る。



「お姉ちゃんは、妹がこんな扱いされて平気なの?」



必殺、涙目をくりだす。