「なんでぇ? 行ったのは本当だもん。隠すことないよね」



「咲耶、きみは夢を見てたんだよ。きみは何も知らない」



「早く認めちゃいなよ。ボク、もう帰りたいー」



「桃木野の、これも次期当主の勤めよ……」



「…………めんど」



どうやらこの場には、五家当主と次期当主、それに加えて咲耶がいるらしい。



「百歩譲って花嫁はいいとしてだ。鬼の子は見過ごせん。罰として、鬼の子は我が神水流が貰い受けよう」



「待て。抜け駆けは許さん。金光院が!」



「いいや、我が浄土寺こそが相応しい」



「鬼は我が火宮のものだ」



「不正ばかりのお主に任せておけぬ」



当主達は、鬼の子、おそらくマシロ君を取り合うだけでなく、代替案の提示もする。



「鬼が駄目ならそこの生まれ変わりを寄越せ」



「桃木野、何を…!」



「コノハナサクヤヒメの生まれ変わりは、我が桃木野家に一番相応しいだろう」



「咲耶は僕の花嫁だ!」



「待ってよ当主! ボクこんな女いらないんだけど!」



「咲耶がいらないってどういうことさ!」



「アンタどっちの味方なの!?」



取られたくないのに、いらないと言ったら怒るって、めんどくさいやつ。



「アタシだって、こんなオカマいらないもん」



「ボクの方がお断りなんだけど、こんな脳内お花畑みたいなやつ」



「ブサイクが調子に乗らないで」



「はぁ? どう見てもボクの方がかわいいし。なんならアンタに比べて断然性格までかわいいし」



「男のくせにカワイイとかキモいんだけど」



「ボクはボクがカワイイことに誇りを持ってる。アンタに何を言われる筋合いもないね」



文化祭のステージでアイドルしてた桃木野柚珠。

植物使い同士、咲耶との相性は最悪のようだ。

いつぞや桃木野と揉めそうだと言ってたのは、こういうことだったんですね。

先輩は呆れた顔で首を横に振っていた。



「どちらも我が家で見つけた、我が家のものだ。渡さぬ」



「そんなわがまま言ってもね」



「生まれ変わりは陽橘君のものとしても、鬼の子は破門したという子息のものだろう。それはもう貴様の手を離れている」



「たまたま我が家に紛れ込んだのだろう。我が火宮家で見つかったのだから火宮のものだ。もし愚息のものだとしても、あれのものは我のものだ」



先輩が画面の下で怒りに顔を歪めているのがわかった。

報酬も手柄も全て取り上げられてきた先輩。

破門した後も、まだ搾取しようというのか。



「話にならんな」



「誰のものかはっきりさせましょう」



「その子息はここにはおらぬのか」



「……屋敷で謹慎させております」



「呼び出せ」



「しかし……」



「貴様に拒否権はない。呼び出せ」



「……御意に」



これ、とってもまずいですよねぇ。

先輩はここにいる。

地下牢には、見張りの二人がパンイチでおねんね中。



『ツクヨミさん……』



「…………」



ツクヨミノミコトは私と先輩の期待を受けて、親指をたてた。



「白虎」



おじさんが呼ぶと、強大な神力が現れる。



「白虎の足なら、瞬く間に連れてご覧に入れましょう」



「浄土寺なら安心だ」



「我ら、息子に式神を譲った身。こんな時口惜しいよ」



「なにをおっしゃる。お二方とも、まだ完全に譲っておらぬくせに」



「ほほほっ、なにを言うかと思えば」



「とっとと連れてくるが良い」



「そうだな。白虎」



浄土寺と呼ばれたおじさんの命令がくだる。
しかし白虎は動かない。



「どうしたのだ、白虎」



喉をぐるぐる鳴らすだけだ。

その時、正門の方から轟音が響いた。