隙をついて床下に滑り込み、音を立てずに匍匐前進。

近くを人が通れば息を潜め、離れれば移動を再開する。



「ん?」



「どうした?」



「今、何か気配が……」



「うわっ! 蛾が!」



「おどかすなよ」



「蛾は無理っ!」



「刀振り回すな!」



勘の良さそうな者もいたが、近くの騒ぎに意識を割いた。

ある部屋では。



「警備とかつまんねぇ」



「お前さん、この家の者じゃねえな」



「ええ、まあ」



「お偉いさんに振り回されんのも大変だねえ」



「ははっ、お互いさまです」



「どうだい、一杯」



「仕事中ですよ」



「いいんだよ。ちょっとくらい」



「じゃあ、いただきます」



「お前らも来いよ!」



「いいのか?」



「ごちっす!」



周囲を巻き込んだ酒盛りが始まった。


その後も、我々は意識されることもなく。

大広間の真下に来た。

ここを抜けると、大きめの池を備える庭がある。

牢屋らしき建物は見えない。

先頭を進むヨモギ君が止まった。



「…………においがきえた」



「何?」



「みずのにおいがつよい。これいじょうはおえない」



先輩が小さく舌打ちした。

しょんぼりするヨモギ君の頭を、健闘を讃えるようになでる。



「大丈夫だ。匂いを消すってことは、近くにいるってことだろう。よく頑張ったな」



ヨモギ君は力強く頷いた。



「ツクヨミ」



「私の出番というわけだね」



先輩のご指名に微笑む。

その時、上の人たちの会話が聞こえた。