「おい!」



誰かに呼ばれた気がする。



「おいそこのお前!」



しかし私を呼ぶような友人はいないので、反応すれば恥をかくやつだ。



「聞こえてないのか? 無視なのか?」



声をかける方も大変だな。



「待てっていってるだろ! お詫びのマシュマロを寄越せ!」



「はいいっ!?」



思い当たる節のある、お詫びのマシュマロというフレーズ。

私が話しかけられている。

振り向くと目の前には、仁王立ちした小人がいた。



「……はいぃっ!?」



「おっ、やっとこっちを向いたな」



6歳くらいの少年を手のひらサイズに縮めた外見の小人は、私の顔の周りをくるくる飛ぶ。



「無視ってひどいんだー、ぼく悲しいなー、お詫びのマシュマロちょーだい!」



「…………」



私は無言でマシュマロを取り出し、犬にエサをあげるときのように手のひらに置いた。



「わーい!」



小人はマシュマロを取っていき、かぶりつく。

数秒で平らげたので、2個目を差し出した。

それもぺろりと平らげて、わんこそばよろしくマシュマロを差し出していく。

あっという間に一袋空になった。



「なあ、もうねえの?」



「…………芋けんぴなら」



「ちょーだい!」



キラキラした目を向けられ、断れなかった。


さよなら私の昼ごはん。


泣く泣く差し出した芋けんぴの袋を抱えた小人は満足そうに笑う。



「仕方がないから、ぼくの地蔵を蹴ったことは許してやる」



「はぁ、ありがとうございます」



くそっ、あのふざけた男子どものせいで。



「美味しいもののお礼に、お前にはぼくの加護をやろう」



「加護?」



「ぼくは旅の安寧を祈る神なんだよ。この山にいる間、ほんの少し、ハチや熊、蛇などの危険生物と鉢合わせる確率を減らせるんだ。迷子になりにくくもなるよ」



小人は誇らしげに鼻を鳴らした。



「…………」



「すごいでしょ。今のお前には喉から手が出るほど欲しい加護でしょ」



口を開かない私に自慢まで始める。

でも、その能力って……。



『私が全て補完できるねぇ』



ツクヨミノミコトが面白そうにしていた。

余計なこと言わないでくださいね。



『んー? 余計なことってなにかな?』



「崇め奉ってくれていいよ。とりあえず、追加でマシュマロを……」



『……こいつ消そうよ』



おやめなさい。

言うことを聞いてたら破産しそうだけども。


マシュマロをたかってくる小人をどうしようと頭を悩ませていると、不自然に木の幹が折れる音がした。

熊が出たのかと思い、見ると、額に立派な角をつけた巨漢がいた。

ギロリと血走った目が私たちを捉える。



「ぎゃあああぁぁああぁぁぁ! 鬼いいぃぃぃぃぃ!」



小人は私の背中に隠れた。



『あははっ、加護はどうしたんだろうねぇ』



ツクヨミノミコトが楽しそうだ。



『さあ、このピンチ、切り抜けるには私の力を借りるしかないねぇ。月海』



「いいえ。スサノオさん、お願いします」



前髪をおろし、瞬きひとつで切り替わる。



「心得た」



スサノオノミコトはペンダントの剣を顕現させ、拳を振り抜いてくる鬼を斬った。



「ぎいやああぁぁぁぁああああ!」



転がる胴体を視界に入れた小人は叫ぶ。

そして、恐怖が限界突破したのか、叫び疲れたのか、白目をむいて倒れた。