「五家の火宮サンは、子どもの喧嘩に親が出てくるんスね」



雷地は、火宮当主の頭上にコウモリのようにぶら下がっていた。

流石に無傷とはいかず、ところどころこげていたが、元気そうである。



「よっ、と」



火宮当主に火の玉を飛ばされたのを回避し、私たちのテーブルに着地する。

着地を狙った火宮当主の2撃目に、雷地は再び天井に飛び移り回避。

火の玉はテーブルへの着弾前に、先輩が切り裂き無効化した。



「あーあー、結局巻き込まれるのかよ」



「先輩かっこいー」



「お前の結界はどうした」



「雷地少年がこちらに飛んできた時に消されてしまったよ」



「使えねぇ……」



「失礼な。虫除けにはなったでしょう」



「だったら、この状況は何だ?」



「自然災害だね」



「どう見ても人災だろ。神も弱いな」



「それぞれに領域というものがある。私に物理攻撃の選択肢がないように」



「ものは言いようだな」



「先輩に、術師の選択肢がないように」



「モノの言い方を知らないのか?」



先輩に刀の切先を向けられた。

もう、ツクヨミノミコトが先輩を怒らせること言うから……。

だが、先に喧嘩を売ったのは神を弱い呼ばわりした先輩の方だ。

しかし、二人が喧嘩して傷付くのは私の身体なわけで。

私と関係のないところで喧嘩してくれないかなぁ。

切実に。



「お兄さんやるねぇ」



少し離れたところから雷地が拍手を送ってくれる。



「全力でないとは言え、我が術を斬るとはなかなかの手練れ。しかも黒か………ふむ」



火宮当主も先輩を褒めた。

先輩は刀を火宮当主に向け、先輩と背中合わせに立った私は雷地と睨み合う。

本格的な戦闘の気配に、胸元に揺れるペンダントを握った。

ツクヨミノミコトがいつでも術を発動できるように準備する。

近接戦闘になれば、スサノオノミコトにいつでも変われる。

私はふたりの邪魔にならないよう、息を潜めていた。



「隙ありいっ!」



隙もくそもない声とともに放たれた太い蔦が雷地を捉えるべく床を這う。

空中に逃げた彼を、次いで放たれた火の鳥が頭から食べた。



「これが僕と咲耶のコンビネーションだ!」



「後悔しても遅いんだからねっ! っきゃあぁっ!」



勝ち誇ったように笑う弟君と咲耶に、先輩が斬り飛ばした火宮当主の火の玉が直撃。

爆発した。

吹き飛ばされた彼女達は壁に頭を打って気を失ったらしい。

弟君の操作を失った火の鳥は空気に溶けるように消えて、焦げた雷地が床に叩きつけられる。

着地の瞬間、受け身をとっていたように見えた。

息はあるようだし、大丈夫。

さて、と私は周囲を見る。

この教室で立っているのは、私と先輩、火宮夫妻のみになってしまった。