飲食物を扱う区画からはだいぶ離れた。

目の前には、先頭の見えない大行列。



「何に並んでいるのでしょうか」



ちょうど近くにいた最後尾看板の持ち主に、先輩が声をかける。



「すみません、これは、何の列ですか?」



ひさびさの、うさんく爽やか先輩が降臨。



「お化け屋敷ですよ。死霊術師が使役する死霊が放ってあるので、本格的とみなさんにご好評いただけてます」



妖魔退治のプロを育成する学校で、お化け屋敷っていいのか?

いいんだろうなぁ、人気あるようだし。



「お二人も並ばれますか?」



「んー、そうだな………」



「せっかくですし、並びましょうよ。見てみたいです」



「んじゃ、並ぶか」



「では、注意事項を。中にいるのは使役された死霊ですので、間違えても滅さないでくださいね。営業出来なくなってしまいますから」



「わかりました」



「それでは、当方のお化け屋敷をお楽しみください」



最後尾看板の持ち主は、私達の後から続々並ぶ人たちの最後尾についた。



「注意事項って……」



「おおかた、お前の想像通りだと思うぞ」



「………やっぱり?」



死霊が私達を殺意を持って襲ってくるが、成仏させないでねということだ。



「まあまあ。ツクヨミノミコトがいるんだ。心配はいらないだろ」



「そこらの雑魚に負ける神ではないわ」



小声の先輩に、ツクヨミノミコトが小声で返す。



「あくまで、襲ってくる奴を払うだけだからな。祓うなよ」



「あら? 私、信用ない?」



ツクヨミノミコトが操作権を奪い、先輩の腕を抱き控えめな胸を押しつける。

人の身体で!



「そういうの、やめてくれ」



「なぁに? 恥ずかしがっちゃってぇ」



先輩の首に飛びつくように抱きつくが、先輩は後方によろけながらも抱きしめてくれた。

人の身体でっ!

もうっ、恥ずかしい………。

瞬間、先程まで私の足があったところから炎が噴き上がった。

私たちを襲う寸前だった黒仮面が、それを踏みつけ火だるまになる。



「キャーッ!」



周囲の生徒が悲鳴をあげ、この場は騒然となった。



「設置型の術だねぇ。ちょうど人がいてよかった」



「よかねぇよ」



この学校なんなの。

思ってたのと違う……。



「この黒仮面の人に身代わりになってもらったろ」



「この人の運がよくなかっただけですよぉ」



ただの運なら仕方ないけど、ツクヨミノミコトが操作した運だからなぁ。

先輩も同じ事を思ったようだ。



「………助けてやれ」



「……先輩が言うなら」



私が指を鳴らすと、火だるまの人は水の球体に包まれ、どこかへ飛んで行った。



「救護テントがありましたから、そこに送りましょう」



「ああ」



火柱のおさまったそこには、破れたお札が残されていた。

妖魔を相手取る術を学ぶ学校だと思っていたけど、実は暗殺を教える学校なんじゃないかと疑う。

全員が全員、敵対してくるわけじゃないけど。

巻き込まれ事故も起こっているし、容赦ないなぁ。

身体の操作権を返されたけど、抱きついたり胸を押し付けたりして、どんな顔して先輩を見ていいのかわからない。

気まずいまま列が過ぎていくのを待ち、ついに私達の番がきた。