建物を模した衝立の裏から、店員が二人、お盆を持って出てきた。

一人は窓際の客に、もう一人は私達のところに来る。



「お待たせしました、ほうじ茶です。失礼します」



お盆ごと置いて、衝立裏に戻る。

私と先輩は、同時にほうじ茶を啜った。

しばらくして、みたらし団子をお盆に乗せた生徒が出てきた。

予想通り、私達の方へ歩いてくる。


が。



「きゃあっ」



慣れない着物に足を絡ませたのか、こける。

その際、お盆に乗っていたみたらし団子が私達の顔面に飛んできた。



「………………え?」



床にキスした後、顔を上げた生徒は驚いた。

私達の顔面を汚すはずだったみたらし団子は空中で静止し、同時に投げた小刀は先輩が刀身を掴んで止めていたのだから。

私は、宙に浮いているみたらし団子の串を持ち、口に運ぶ。



「うん、美味しい」



「暗殺にしてはお粗末だったな」



「………なん、どうして………………」



生徒は地に伏せたまま、目を白黒させていた。



「未来予知しなくてもわかるよぉ。殺気ダダ漏れなんだもん」



浮かせていたお皿とみたらし団子を長椅子に着地させる。



「…………こっちの奴も」



食べ終わった串で、背後からのクナイを弾く。

弾いたクナイは、隠れ身の術の布ごと、持ち主を壁に縫い付けた。

ここは忍者喫茶かな………。


にしても、対応する私の中のひとたち凄かった。

ツクヨミノミコトがみたらし団子を救い、スサノオノミコトが死角からの攻撃を跳ね返す。

私は、ただ見ているだけだった。

私が私のまま、同じ事はできない。

串を持つのと逆の手をぐーぱーしてみる。

危機は去ったのか、今は私に操作権がある。

おふたりとも、助けてくれてありがとうございます。

心の中でお礼を言うと、照れたような反応が返ってきた気がした。

いずれ、やり方を教えてくださいね。

先輩にボコられるより充実した訓練になると思うので。

今の私にはできないけど、私の身体があそこまで動いたんだ。

同じ身体を使っておいて、私が出来ないなんてありえないよね。

小刀を床に突き刺した先輩は、姿勢を戻し、みたらし団子を食べる。

先輩は、自力であれだけの動きをしているんだよね。

その横顔を尊敬の眼差しで見ていると、視線に気づいた先輩が食べかけの串を向けてきた。



「ったく、食い意地はってんなぁ」



「違いますー!」



「遠慮すんな。霊力を消費すると腹減るのは当たり前だ」



「先輩だって、白刃取り? してたじゃないですか」



「あんなもん、強化なしでいける。そもそも、身体強化は霊力の消費が少ないって言ったろ」



ただの身体能力のみで飛んできた小刀を摘んだのか。

なんか悔しさ通り越してむかつく。

さらに近づく先輩のみたらし団子を当てつけのようにぜんぶ食べてやったが、彼は気にした風もなく笑っていた。

ほうじ茶を飲み干して、席を立つ。

会計を済ませ、教室を出るところで、教室内に異変が起きた。



「うぅっ………」



窓際の生徒がお腹を抱え、床でのたうち回る。



「大丈夫ですか!」



店員が駆け寄り、野次馬が彼らを囲む。



「何があったん?」



「大丈夫? 苦しそう……」



「これ先生呼んだ方がいいんじゃね?」



「やだこわぁい」



「げほ、ゴボッ………」



「これっ……! 黒仮面用のお茶…………!」



「うそっ! すみません! 間違えました!」



「解毒薬は!?」



「作ってないよ!」



「なんで作ってないんだよ!」



「とにかく、誰か保健室!」



面倒な事に巻き込まれる前に、私達は急いでこの場を離れる。


………あれ、飲むのは私達だったんだ。

何が入ってたんだろう………。



「……ツクヨミノミコトが何かやったのか?」



先輩が疑いの眼差しを向けてくる。



「彼は運がなかった。それだけのことですよぉー」



ツクヨミノミコトが私の口で答えた。

ツクヨミノミコトは、ツキの神というだけあって、運を司る。

つまり、このひとの仕業だ。



「そうか」



先輩は追及しない。

ツクヨミノミコトがなにもしなければ、餌食になっていたのは私達の方。

完了された運の操作に証拠は残らない。


つまりは、店員が間違えて配膳しただけということ。