「…………」



苦い顔をする先輩。


こうしてツクヨミノミコトが出ている間にも、私の寿命は削られている。



「……………私は運がいい。先輩の教えは間違っていないよ」



「………それってどういう」



「つまらない話はここまでだ」



目の前には、黒仮面の剣士が数人。

私たちを囲むように展開し、刀を向けてくる。



「どこかのスカウトかな?」



手合わせを望み、黒をつける者もいるだろう。



「相当な手練とお見受けする」



先輩は刀を隙なく構えた。

私はペンダントの剣を顕現させる。



「私、剣は苦手なんだよねぇ」



「守ってやろうか?」



「いいや。適任に変わろう」



「適任……」



瞬きひとつで、ツクヨミノミコトからスサノオノミコトに切り替わる。


一瞬のことだった。

同時に跳躍する黒仮面の刀は折れ、意識を刈り取られる。



「……ほぉ、よく見切った」



私の最後の一閃は、一本の刀に止められていた。



「うっせ」



先輩は私の剣を弾いて、構えなおす。



「お前は敵か?」



「……………ただ、実力を知りたかった」



刀を向けられて動じないスサノオノミコトって、実は危険人物かも。



「………もうしない」



「それを信用しろと?」



「………」



スサノオノミコトが困っているのが分かる。



「先輩が、背中を預けるに足る人物か見極めようとしたのでは?」



口が、私の言いたいように動いた。

しかし、身体は剣を構えたまま動かない。


逃げたな。



「まず、お前が剣を下ろせ」



先輩の命令に従い、構えをとく。

それでも隙はない。

身体の操作権はスサノオノミコトにある。


先輩も同様に、刀を下ろした。


微妙な距離を空けて、先輩と見つめ合う。



「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「………んんっ」



先輩が頭を掻いて、右手を出してきた。



「お前はツクヨミノミコトより話ができそうだ。力だけ差し出して引っ込んでくれるか」



「……有事の際には、吾が剣を振るおう」



私は剣をペンダントに戻し、先輩の握手に応えた。

身体の感覚が戻ってくる。



「先輩……」



「………んじゃ、ま、行くか」



握手の手を繋ぎに変えて。

襲撃者が途絶えたところで、私達は校舎へ入った。