「入れ替わりの鍵は、仮面か?」



先輩の質問に、私の口が動く。



「半分正解。視界に膜を挟むことによる意識の切り替えであり、眼鏡でも、前髪でも、なんでもいいんだ。この子が本気で隠れたいと願うなら、おそらくそれらも必要ないね」



「憑依……いや、二重人格ってことか」



「そう思ってもらって構わない。この子は今、テレビを見るようにこちらを認識しているよ」



「生まれ変わりは神界の記憶がないと言われていたが、間違いだったか」



生まれ変わりは、神界での記憶をなくしている。

しかし神の力はそのまま持っている。

以前、先輩の説明にあったことだ。



「さて。他の神々の事情はわからないが、私達が出てこられるようになったのは、つい最近だ。月海自身にも、私達の記憶が引き継がれている事もない。……これは私の勘だが、コノハナサクヤヒメに神界の記憶はなさそうだ」



「………月海が神力を使えないのは、お前らが人格として在るせいか? やっぱりお前、力だけ置いて引っ込んでろよ」



「酷いよ先輩。私、こんなに尽くしているのに」



私は、先程から飛んできている攻撃を、触れる前に重力で潰していた。

我々の通った後には、焦げ跡や鉄の破片やらが轍のように残っている。



「戻って、式神を喚んでもらう。高位の式神に喧嘩売る奴はいねぇだろ」



「オモイカネかぁ。私あの人苦手だなぁ」



「ほぅ。そりゃいいこと聞いた。あいつにもお前の説得を手伝ってもらおう」



「うげぇ、勘弁。………私達の転生体のくせに、なんでオモイカネなんかと仲良くなってんだろう」



「やっぱ、転生って言っても、おまえと月海は別人なんだな」



「そうだよ。だから、二重……三重人格と思ってもらって構わないんだ」



「三重………」



「月海と私とスサノオだねっ」



「三貴神の二柱が一人に転生って、とんでもないな」



私の気持ちを先輩が代弁してくれた。

私の顔は苦笑している。



「とんでもないんです。だからもうちょっと優しくして」



先輩にしなだれかかり、腕を絡ませる。



「転生先は選べるのか?」



「選べたら、ふたりで一人にはなっていないかな」



「月海は、生まれ変わりの中でも特別な存在ってことか」



「少なくとも、基本からは外れているね」



天原咲耶がコノハナサクヤヒメの生まれ変わりというように、一人一柱だから。



「神の力は、使っていなくとも肉体に影響を及ぼす。本来、人間の手に余るものだ。相性もあるが、なるべく反動の少ない肉体が欲しいところだよねぇ」



「影響……反動とは、なんだ?」



先輩の質問に、私は淡々と答えた。



「人間でも、大きな術を行使する際、命を削るだろう。同じことだ」