「それは,ある,けど」



血夜くんだけ,ある。

ないなんて言えなくて,私は言葉を濁した。



「なぁに,朱鳥ちゃん。濁しちゃって。もしかしてその子のこと,あす……」

「何でもないってば! 彼氏なんていない! それでいいでしょ?!!!」

「あらぁ,ごめんね朱鳥ちゃん。お母さん,つい気になっちゃって。でも大丈夫よ,朱鳥ちゃんは可愛いもの。悩みがあってもすぐに解決するわぁ」



あらあらと,お母さんは眉を下げる。

余裕がなくて,大人げない対応だったと私はしゅんとする。



「別に悩みとかじゃ,ない」



だけどそれを素直に言えるほど,私はよく出来ていなかった。

こんなのばっかり,だから。

私の周りにはいつも,ヴァンパイアが少ない。

自分ばっかり守らずに,素直になりたい。

それからはお母さんも元通りで,お寿司は美味しくて。

お風呂は温かくて。

なのに,気持ちが晴れなかった。

血夜くんは今のまま,私のまま好きにしたらいいと言ってくれたけど。

私達,ほんとにこのままでいいのかな。

夏休みまで引き伸ばしちゃって。

血夜くんの言葉を受け止めて,考えるって言ったのに……

……あ。



『僕が思うに。今までの僕の告白は,朱鳥さんにとってはただ言葉でしかなかったのかもしれないなと思うんです』



これも,私また違うの?