陽茉莉と結子と遥人は三人固まって座り、シャンメリーで乾杯をした。さすがにアルコールは禁止だが、シャンメリーも店長の奢りである。

ペコンと紙コップがぶつかる鈍い音と、炭酸が抜けていくシュワシュワという音が、何だか気が抜けて疲れた体に染み渡っていく。

「クリスマスなのに仕事だなんて、私たちって真面目よね」

結子がケーキを頬張りながら笑った。
レトワールの前の歩道もイルミネーションに包まれてクリスマスムード一色だ。

「そりゃ、洋菓子店の宿命でしょ」

「長峰って冷めてるわよね。長峰に彼女ができたらあっさりしすぎて彼女が泣くわ」

「失礼な。岡島さんこそ彼氏が泣きますよ」

「私の彼もクリスマスは仕事なのよ。割り切ってるわ」

遥人の反論に、結子はカラカラと笑う。

「長峰くん彼女いないんだ?」

陽茉莉のほんの疑問がつい口からこぼれ落ちる。
遥人は不満そうに大きく息をついた。

「そういう矢田さんこそどうなんですか?」

「えっ私? 私はいないよ。だってほら、記憶ないし」

あっけらかんと言ってのけた陽茉莉だったが、結子と遥人はお互い顔を見合わせて気まずそうに黙る。

その反応に、陽茉莉はごくりと息をのんだ。もしかしてこの二人ならあの指輪のことを知っているのではないか。数日燻っている陽茉莉のモヤモヤを聞いてみてもいいだろうか。

ドキンドキンと鼓動が速くなる。

先に口火を切ったのは結子だった。

「ねえ陽茉莉ちゃん、水瀬さんとは連絡取ってないの?」

「水瀬さん……?」

より一層心臓が揺れた。
名刺に書いてあった名前は「水瀬」だった。結子は確かに今、「水瀬」と言った。

「あの……えっと……」

「恋人いないなら、俺立候補していいっすか?」

「えっ」

思いもよらぬ言葉に、陽茉莉は持っていたフォークがコツンとショートケーキのいちごにぶつかった。そのままケーキはコテンと横倒しになってしまう。

「矢田さん、この前の言葉は本気ですよ」

真剣に見つめられて陽茉莉は目をぱちくりとさせる。ケーキが倒れたことなど気づかないくらいに頭がザワザワと落ちつかない。

この前の言葉で思いつくのはあれしかない。

――俺にとって矢田さんは前と変わらない大好きな人ですよ

「そ、そうなんだ、ありがとう。……えっと、どうしよう?」

カアアっと体に熱がこもるのがわかった。
陽茉莉が知りたいのは「水瀬さん」のことなのに、これではまるで遥人から告白されているようなものではないか。

「こら長峰、陽茉莉ちゃんを困らせるな」

結子が遥人を咎めれば、「冗談ですよ」と自虐的に笑った。
もどかしい気持ちに陽茉莉は胸のあたりをきゅっと握る。