家に帰ってからあの指輪を取り出してみた。
大きなダイヤモンドを引き立てるようにメレダイヤモンドが左右に散らばる。光を反射して虹色に輝き、角度によってその色を変えた。

「あっ」

ふいに指輪の内側に何かが見え、陽茉莉は声を上げた。それは刻印だ。

「……with you……R&H」

きっとRとHはイニシャルだろう。
もしこれが確実に陽茉莉のものだとしたら……。

「Hは陽茉莉のH? Rは誰?」

昼間の遥人との会話を思い出す。

――俺にとって矢田さんは前と変わらない大好きな人ですよ

「遥人くん? でもそれだとHになるし……違うよね。じゃあ誰だろう?」

お見舞いに来てくれた人の中にいただろうか。だがあの時の顔は誰一人思い出せない。たくさんの人に会った気がするのだが。

陽茉莉は指輪を左手の薬指にはめる。
ぴったりとはまる指輪はやはり自分のものなのだろう。

ひととおり眺めてから、陽茉莉はまた指輪をケースに戻した。ケースと共に引き出しに入っている一枚の名刺。これもなぜここにあるのかわからない。

「水瀬データファイナンス……水瀬……亮平……」

名前を呼び上げる。
瞬間、体中に電気が走ったかのように痺れた。

「亮平……。Rだ……」

ドクンドクンと鼓動が脈打つ。
誰だかわからない、けれど心が無性にざわつく。
これは確かめねばならない。いや、確かめたい。誰なのか知りたい。

陽茉莉は忘れないように、水瀬亮平の名を何度も何度も心にしっかりと刻んだ。