ドクドクと変な緊張感が陽茉莉を襲う。

両親に彼氏を紹介したいと告げた時の反応は微妙なものだった。家族で夕食をとりながら比較的母の機嫌の良い時を狙ったのだが……。

「そうか、陽茉莉もそんな歳になったか」

と、父はまんざらでもなさそうな反応だったのだが、対して母は箸が止まり返事がない。
気まずい雰囲気になりながらも陽茉莉は気にしないふりをする。

「えっと、それでね、水瀬亮平さんっていうんだけど、亮平さんは車椅子なの。だから家に上がってもらうのは大変だからどこかお店でって思ってるんだけど」

「車椅子?」

「うん、車椅子」

「障がい者ってこと?」

「あ、うん、そうだね」

両親は顔を見合わせる。
まさか娘の彼氏が障がい者だとは思っておらず、その心境は複雑だ。

「陽茉莉、あなた大丈夫なの?」

「うん? 大丈夫だけど」

お互い探るような空気に耐えられなくなった父が「まあまあ、まずは一回会ってみようよ」と助け船を出し、なんとか会うことに成功したのだが――。

車椅子という言葉を出したときからどうやら印象はよくないと陽茉莉は感じている。けれど亮平に会ってくれたらきっと亮平の魅力をわかってくれるのでは、とも期待しているのだが。

いかんせん母の言動が気になって気が気じゃない。

以前訪れたことのある料亭へ両親を連れていくと、入口で亮平が待っていた。
スーツ姿で見目麗しく、陽茉莉はへらっと頬が緩む。

亮平が車椅子であることで、陽茉莉の両親もそれが亮平だとすぐにわかった。

「はじめまして、水瀬亮平と申します。本日はご足労いただきありがとうございます」

亮平の挨拶が済むと着物姿の女将が現れ、客室へ案内した。

陽茉莉は亮平の側へ駆け寄りこそこそっと耳打ちする。

「亮平さん、メールでも伝えたけど……」

「大丈夫だよ、陽茉莉」

亮平はにこりと微笑む。
事前に両親の反応がよくなかったことを陽茉莉は正直に伝えていたのだ。

車椅子であること、障がいを持っていることに対してよく思わない人がいるのは亮平もわかっている。娘の彼氏ともなればなおさらだ。けれど今更そんなことくらいで落ち込みはしないし、自分自身も元々は障がいを持っていなかったのだ。だから亮平はどちらの気持ちもわかるつもりだ。