亮平の両親に挨拶をして和気あいあいと過ごした後、陽茉莉と亮平は亮平の自宅に移動した。

「疲れただろう?」

「ううん。とっても素敵なご両親だったね。ずっと亮平さんのこと心配してたのが伝わってきたよ」

陽茉莉は先ほどのことを思い出す。寡黙な父と涙もろい母。みんな言葉足らずなだけで、ちゃんと思いやっていた。

「それはさ、陽茉莉が気づかせてくれた。ありがとう」

本当に、そうだ。
陽茉莉がいなかったら、きっと亮平は両親に対して嫌悪感を抱いたまま。ことさら父親には敵意むき出しでこの先も過ごしていたかもしれない。

ありがたいような、少し恥ずかしいような、くすぐったい感情が胸を熱くする。

「気づけたんだとしたら、それは亮平さんがちゃんとご両親と向き合った証拠だよ。よかったね」

ああ、どうして彼女はこんなにも綺麗なんだろう。

陽茉莉と話をするだけで心が浄化されていく気がする。愛おしくてしかたがない。

「亮平さん、今日はご両親に紹介してくれてありがとう」

「こちらこそ。今度は陽茉莉のご両親にも挨拶させてもらっていいかな?」

「うん、もちろんだよ。親に伝えておくね。あ、でも家に上がってもらうにはどうしたらいいんだろう?」

当然陽茉莉の家はバリアフリーでもなんでもない。車椅子では入ることの難しい段差がいくつもある。

「そうだね。迷惑をかけてしまうかもしれないから外で会うのがいいかもしれない。例えば前に食事に行った店とか」

「そっか、それがいいね」

ふふっと笑う陽茉莉の腕をくっと引っ張る。
わわっという可愛らしい声と共に亮平の胸の中に陽茉莉がすっぽりと収まった。

「どうしたの?」

「抱きしめたくなった」

「甘えん坊さんだなぁ」

言いつつ、陽茉莉からも亮平を抱きしめる。

穏やかで甘ったるい時間がゆるゆると過ぎていく。
窓から差し込む陽だまりが暖かい。
そんな幸せな午後だった。

夜まで亮平と一緒に過ごす陽茉莉だけれど、必ず門限の十一時までには家に帰る。本当はお泊りだってしてみたいと思っているが陽茉莉の中の良心がそれを許さない。門限を破ろうとすると母の泣き顔が足枷となって、すごすごと真面目な陽茉莉に落ち着くのだ。

それが良いのか悪いのか、陽茉莉には判断できないけれど亮平はいつも陽茉莉を尊重してくれるためありがたく思っていた。