「陽茉莉を両親へ紹介したいと思って」

「え……」

ドキリと陽茉莉の胸が揺れる。
昨日亮平の家へ行き、もしかしたら両親に挨拶をしなければいけないと緊張したのも一瞬で特に会うこともなく、「また今度でいいかな」と亮平も言っていたのに。

「いや、実は昨日陽茉莉が家に来たのを母が目撃していたみたいでさ」

「亮平さんのお家に行くのよくなかった?」

「違う違う。俺がきちんと紹介しておきたいと思ったんだ。陽茉莉は大切な人だって」

「嬉しい。でも緊張するなぁ」

亮平の両親はどんな人だろうか、想像もつかない。あんなに大きな敷地に大きな邸宅。長谷川も住み込みで働くくらいの経済力。

それを思うと急に身分差を感じずにはいられない。

「亮平さんってお坊ちゃまだもんね?」

「それはやめてくれ。恥ずかしいから」

「私なんか釣り合わないって言われたらどうしよう。凡人には興味ない、姫を連れて来なさいって言われる?」

「なんか妄想始まってる?」

ああでもないこうでもないとくるくる表情が変わる陽茉莉を見て亮平は苦笑いする。

確かに亮平は社長で、父親は水瀬グループのトップを務めるエリート家系。尻込みする気持ちもわからなくはないけれど、亮平の交友関係に口を出されたことは一度もないしこだわりがあるとも思えない。

むしろ母親は「可愛い子連れ込んでたの知ってるのよ。紹介しなさいよ」とずいぶん乗り気な様子で亮平に電話をかけてきたくらいだ。

両親は自分のことなんか興味がないだろうと思っていたけれど、陽茉莉から「ご両親に愛されているんだね」と言われた効果なのか、今なら素直に両親と話せそうな気がしていた。

それにやはり陽茉莉のことが大切だから、これからの将来を考えたい相手だからこそ、きちんと紹介したいと考え直したのだ。

「陽茉莉は俺にとってお姫様だよ」

言えば、陽茉莉は頬をピンクに染めながら、

「ふわぁ、王子様がイケメン過ぎる」

と黄色い悲鳴を上げた。

すべてが愛おしくてたまらない。
二人をまとう空気は柔らかくほわほわしている。

こんな風に感じられる日が来ようとは、亮平は感慨深い気持ちになりながら陽茉莉の手を握り直した。
柔らかで温かな感触に胸がきゅっとなる。

「ずっと一緒にいようね、亮平さん」

「ああ、そうだな」

ふふっと微笑んだ陽茉莉はやはり向日葵のようで、亮平の行く道を明るく照らす。それが心地良すぎて、亮平はどっぷりと陽茉莉の雰囲気に飲まれていくのだった。