「……亮平さんのばか」

ぷくっとむくれた陽茉莉の瞳が緩く弧を描いた気がした。

「いや、ごめん、陽茉莉。そういう意味じゃなくて――」

慌てて繕おうとした亮平の右手を陽茉莉は掴む。そしてそのまま自分の左胸にあてがった。亮平の手のひらに女性特有の柔らかな感触が伝わってくる。

「えっ、ちょっ、陽茉莉?!」

動揺したのは亮平だけで、陽茉莉はいたって真面目な顔でそれをやってのける。先ほど弧を描いたかと思った瞳は真剣そのもので、亮平はごくりと息をのんだ。

「私を亮平さんのものにして。嫉妬なんかしなくていいくらい、陽茉莉は亮平さんのものだよって刻み込んでよ」

それが何を意味するのか、わからない亮平ではない。

布越しでも伝わる柔らかな胸の感触。
艶めかしいぷっくりとした小さな唇。
陽茉莉特有の甘い香り。

言葉は強いのに、二人をまとう空気は緩やかに甘美なものへと変わってゆく。

どちらからともなく、吐息が漏れた気がした。

「このまま陽茉莉を抱いてもいい」

「うん。抱いて」

頭を抱え込むようにして口づけたキスは今までにないほど深く激しく、燻っていた懸念もバカみたいな嫉妬も、何もかも忘れてしまうほどに熱くて濃厚。絡み合う唾液はまるで甘い蜜のように吸い尽くしてしまいたくなる。

「ベッド行こ?」

陽茉莉が立ち上がり亮平を支える。ゆっくりと、一歩ずつ。以前亮平は立てないわけじゃないと言っていた。だけど何をするにも時間がかかるとも。

こうして亮平の家で一緒に過ごすことで、少しずつ亮平の生活が見えてくる。それが陽茉莉にはとても嬉しい。また一歩、亮平に近づいた気がするのだ。

ぽふんと倒れ込んだベッドでしばし見つめ合う。

「陽茉莉、可愛い」

言えば、嬉しそうにくしゃりと笑う。
こぼれ落ちそうなほどに柔らかく潤んだ瞳。

そんな無垢な笑顔を見て、自分は何を嫉妬していたのだと反省すると共に、またひとつ陽茉莉のあたたかさに触れられて嬉しいと感じた。

「愛してる、陽茉莉」

「私も。愛してる、亮平さん」

キスを交わしながらお互いの服に手をかける。ゆっくりと露わになっていく体にドキンと心臓が揺れた。

指先が肌に触れるだけでジンと痺れるような感覚。
もっと触れてほしい。
もっと触れたい。

密着する肌と肌。お互いの体温が交じり合ってやがてひとつになって蕩けていく。

頭を痺れさせるほどに甘美な夜は、しっとりと更けていった。