「どうしてだろう、陽茉莉といるとすごく楽なんだ」

「いつも頑張りすぎなんじゃない?」

「俺は頑張ってるのかな?」

「頑張ってるよ。すっごく。だって今日だって手を繋いで歩けたんだよ。亮平さんが頑張って練習してくれたからでしょ。私、すっごく嬉しかったんだぁ」

陽茉莉はコテンと亮平の肩に頭を乗せる。亮平はそうっと陽茉莉の髪に触れた。そのまま優しく頭を撫でる。編み込んだ髪が崩れないように、そうっと。

「……ふふっ」

可愛らしい笑い声が亮平の耳元をくすぐる。

「亮平さん、好き」

「陽茉莉」

キスをして抱きしめるだけでは物足りない。
もっともっと自分のもにしたい。
この手に掴んでいるのに、不安になるのはなぜなのだろう。

「何か心配ごと?」

ほら、こんな風に。
陽茉莉は亮平の心を機敏に感じ取る。
かなわないな、と亮平は肩に乗っている陽茉莉の頭に自分の頭を寄せた。

「俺さ、陽茉莉がいないとダメみたいだ」

「いつも一緒にいるよ」

「そうなんだけど、陽茉莉は可愛いから心配だよ。いつか誰かに取られるんじゃないかって」

「私はどこにも行かないってば。亮平さん以外興味ない」

「陽茉莉はそうかもしれないけど、まわりが放っておかないだろって意味だよ」

そう、例えばレトワールの長峰遥人みたいに。いつも陽茉莉の近くにいて、守ってやることができる。陽茉莉をどこにでも連れて行けるし、不自由させることもない。

亮平にはそれができない。
できる自信がない。

つと、陽茉莉は顔を上げた。
亮平と目が合うと、その瞳を覗き込む。
真っ直ぐな瞳に亮平は視線がそらせない。けれど真っ直ぐ見ることもできない。

「亮平さん、何かに嫉妬してるでしょ」

とたん、亮平はふいと視線をそらした。
それが意味することは図星ということで、嫉妬もさることながらいい歳した大人がこうもムキになるものかと思わなくもないのだが――。