見渡す限り続く長い塀。
立派な門構えには自動シャッターがついていて、何に反応するのか亮平が前に立つだけでライトが点灯しシャッターが上がった。

「……亮平さんのお家?」

「まあ、正確には実家かな」

「実家!」

ごくりと陽茉莉は息をのむ。
実家ならば亮平の両親もいるだろうか、もしかしたら挨拶をしなくてはいけないのかも……などと考えて心なしか緊張で心臓がドキリと揺れる。

陽茉莉の手に力がこもった気がして、亮平は繋いでいる手をぐっと引き寄せた。

「もしかして緊張してる?」

「あ、うん。だってご挨拶とかした方がいいよね?」

「まあ、確かに親に陽茉莉を紹介したい気持ちもあるけど、また今度でいいかな。父はたぶんまだ帰ってないだろうし。それに家は別れてるから会うことはないよ」

「それってどういう……」

シャッターが開いて亮平は中へ入っていく。陽茉莉も手を引かれながら後に続いた。

よく手入れされた大きな庭が広がり母屋に向かって道が続いている。まるでどこかの高級旅館に訪れたような錯覚を起こすが、「陽茉莉、こっち」と亮平は母屋の手前で脇道に入った。

母屋に比べたらずいぶんと小さな平屋建て。けれどしっかりとした造りの住宅に亮平は手慣れた様子で入っていく。

「ここが俺の家。一人暮らしだから気兼ねなく上がって」

「……メイドさんはいないね」

「いるわけないだろ」

陽茉莉の呟きに亮平は苦笑する。
玄関は広くバリアフリーになっていて、手すりなどを掴みながら亮平は器用に外用の車椅子から内用の車椅子に乗り換えた。陽茉莉の介助など一切いらない。これがいつもの亮平のスタイルだ。

「実家の敷地内に亮平さん用のお家があって、一人暮らししてるってこと?」

「そう、そういうこと。だから緊張しなくていいよ」

「すごい。亮平さんってやっぱり社長さんなんだ」

「なにが?」

「だって自分用のお家を建ててるんだもん」

見渡す限りすべてがバリアフリー。要所要所に手すりや持ち手が設置してあり、キッチンも車椅子に合わせて低くなっている。その他の家具も低い物が多いのは、そういうことなのだろう。