行き当たりばったりにお店を覗いてみるも、混んでいたり車椅子では入れない店もあったりでどこにも入店できないまま、気づけば飲食街を通り抜けてしまった。

「ごめん、陽茉莉」

「なんで亮平さんが謝るの?」

「だって車椅子じゃなかったら店に入れたかも」

「もう、そういうのは気にしなくていいの。私は亮平さんといられればそれでいいんだから」

何を食べるかではなく、誰と食べるか。陽茉莉は後者の方が大切だと考える。店に入れなかったことも残念ではあるが、そんなこと亮平と一緒にいられるのならばどうだっていい。

それが陽茉莉の本心だとわかるからこそ、亮平は救われた気持ちになる。

「じゃあさ、うちくる?」

「亮平さんのお家?」

「うん。家でご飯食べよう。コンビニで買ってもいいし、デリバリーでもいいし」

「びっくりした。専属シェフでもいるのかと……」

「お坊ちゃまから連想しすぎだろ」

亮平がぷはっと吹き出せば、陽茉莉も「そうだよね」と朗らかに笑った。

長谷川が亮平のことをお坊ちゃまなどと呼ぶものだからお金持ちのイメージがすぐに思い浮かんでしまう。とはいえ亮平は高価なものを身につけるわけでもなく特段羽振りが良いわけでもない。陽茉莉と同じ目線で同じ時を過ごしている。

だから忘れていたのだ、亮平が社長であるということを。
長谷川が住み込みで働いているということを。
それが何を意味するか。

結局、亮平の家の前で、陽茉莉は大変に驚くことになるのである。