「長峰が言いたいのはさ、車椅子って制約がいろいろあるじゃない。例えば家をバリアフリーにしなきゃいけないとか、行けない場所があったりとかね。そういう面で苦労するんじゃないかなーって言いたかったのよ。でしょ、長峰!」

「あ、うん。……そうっすね」

遥人が思っていたことはもっと辛辣なことだったけれど、結子は上手くオブラートに包んで伝えてくれた。

陽茉莉は納得した様子でうんうんと頷く。

「気にしてくれてありがとう。でも私にはそんなこと苦労のうちに入らないんだ。だから大丈夫だよ。それより今日お昼に亮平さんがケーキ買いに来てくれるって。長峰くんにも紹介するね」

ニッコリと満面の笑みで微笑まれて、遥人はそれ以上何も言えなくなった。

ああ、そうだった、矢田陽茉莉とはそういう人物なのだと改めて実感する。遥人が入社したときから何も変わらない、純粋無垢で慈愛に満ち溢れている女神のような彼女。陽茉莉に惹かれるというよりは、一緒に働くことで幸せをわけてもらえるような存在。

「長峰、大丈夫? 今夜はヤケ酒?」

結子が遥人に聞こえるだけの声音で囁く。

「……まるで失恋したみたいな言い方やめてくださいよ。そんなんじゃないですし」

「そう? ならいいけど」

「どっちかっていうと、祝い酒っすね。矢田さんが幸せそうでよかったなって……」

「強がっちゃって」

結子がふふっと笑えば、遥人は不服そうな顔をした。それがおかしくて、結子はまた肩を揺らした。