ずっと、そばにいるよ2

翔太の勤務時間終了に合わせて、華は退院することになった。

退院後は一旦、華の実家に行き荷物をまとめて、翔太のマンションに行くことになっている。

病室に航也がやってきた。

「おはよう。2人とも良く眠れた?まずは診察するよ」

いつものように丁寧に診察をしていく。

「いいね。華は今日退院になるからね。夕方翔太が迎えに来るみたいだから、そしたらな。
2週間近く入院してたから、自分が思ってる以上に疲れやすくなってるから、帰ってもゆっくり寝るんだよ?
体調に変化あったら翔太に言ってね。日中は俺に直接電話くれてもいいから」

「うん」

華は航也の話を頷きながら聞いている。

「はい、次は美優ね。そんなに悲しい顔しないの。華が帰りづらくなるだろ(笑)」

「だって…寂しい。華が元気になったのは嬉しいけど、華と会えなくなるのが寂しい…」

「美優、またお見舞いに来るよ?」

華がすぐに声を掛けるが、今にも泣きそうな美優。

「そんな美優にもご褒美やろっかな〜?」

航也の言葉を聞いて、美優が不思議そうな表情で顔を上げる。

「胃潰瘍も治って食事も取れるようになったし、喘息の発作も落ち着いてるから、退院に向けて外泊してみよっか?」

「え?いいの??」

「3泊4日はどう?」

「そんなに?嬉しい!!」

「2日後、俺が当直明けで朝帰れるから、その時に一緒に帰ろう。俺も休暇が余ってて、その間休み取るから、一緒にいれるよ」

「美優、良かったね!」

「うん!」

「じゃあ、俺外来行ってくるな〜」

航也は出て行った。

「私も早く退院できるように頑張らなきゃ。華は、今日から翔太と一緒に住むんでしょ?マンション一緒だから、私が退院して高校に通えるようになったら一緒に通えるね!」

「うん、そうだね。楽しみにしてる!うちの親、彼氏と同棲なんて絶対反対すると思ったのに、案外あっさりでさ。翔太君に任せとけば大丈夫だとか言ってさ(笑)両親は翔太のこと大好きみたい」

「そっか!翔太が良い人なのがちゃんと伝わったんだよ。結婚出来ちゃう勢いだね!」

「結婚っ?!」

華の顔が赤くなっている。

「アハハ、2人はお似合いだよ!」

「美優だって、航也とお似合いじゃん!航也が美優のこと大好きなのがすごい良くわかるよ」

「え?私、航也に怒られてばっかりだよ(笑)」

「美優が大事だからでしょ。愛されてる証拠!」

2人でそんな会話をして過ごした。
夕方になり、勤務を終えた翔太が病室に来た。

「翔太!」

華が嬉しそうに声を掛ける。

「おぅ、会議で遅くなって悪いな。準備できてる?」

「できてるよ」

「美優ももうすぐで外泊だな。待ってるからな。1日どっかでうちで食事用意するから、航也とおいで?華の退院祝いと美優の外泊祝いしよ!」

「外泊祝いってあるの?」

美優が笑いながら尋ねる。

「いーの、いーの。退院前祝いってことで」

「うん、ありがと!翔太、華またね」

「うん、美優ちゃんと夜寝るんだよ?何かあったら、看護師さんにちゃんと言うんだよ?」

「はい、はい、わかった、わかった」

心配する華をよそに、涙が出る前に強引に翔太と華を部屋から追い出す。

翔太と華はナースステーションに挨拶をして、航也の医局にも顔を出す。

「航也?世話になったな。華、連れて帰るわ」

「お世話になりました」

「うん、気を付けて帰れよ。華、看護師さんから薬受け取った?」

「うん、もらった」

「翔太、肺炎の後は肺機能が低下してるから、疲れやすかったり、息があがりやすくなると思うから、ゆっくり自宅での生活に慣らしていってやって。何かあったら連絡して?」

「あぁ、ありがとな。無理させないようにするわ。あと、美優だけど、今頃寂しくて1人で泣いてると思うから、病室のぞいてやって?出てくる時、涙目だったからさ…」

「あぁ、わかった。任せて。華も心配しなくていいよ。じゃあな」

2人は航也と分かれて帰路に着いた。

〜その頃〜
航也が美優の病室をのぞくと、布団に包まっていて、鼻をすする音が聞こえる。

(翔太の予想的中だな…)

「おーい、美優?お顔見せて?苦しくなっちゃうから出ておいで?」

美優はぐちゃぐちゃの顔で布団からひょっこり顔を出す。

「ハハハ、何泣いてんだよ。元気出せよー(笑)寂しくなっちゃった?」

「うん…グスン…寂しい…」

「えらい素直だな(笑)
今日はもう仕事終わったから消灯時間までいてやるから、だから泣き止めよ」

そう言うと航也は指で美優の涙を拭い、抱きしめてくれる。

こんな時に看護師さんが入って来たら航也はどうするんだろう…?

なんて考えながら、素直に航也の胸の中に身を預ける。

「美優ももう少しで外泊だからな。どこか行きたい場所ある?」

季節は6月の初夏。

季節の変わり目で体調に気を付けなければいけない季節だけど、発作の頻度が落ち着いているからか、行きたい場所に連れて行ってくれるつもりみたい…

でもまだ遠出したり、体をたくさん動かすのは駄目だろうと、頭の中で行けそうな場所を必死に探す。

「海…見に行きたい…前行けなかったから…」

「前に外泊した時に行けなかったもんな、いいよ、他には?」

「まだ良いの?」

「あと1つくらいならいいよ」

「う〜ん、水族館がいい!」

「水族館か〜了解。楽しみ見つけながら過ごそうね」

気分が落ちてるのを察して、元気付けてくれる航也はさすがだなとつくづく思う美優だった。
〜翔太と華〜
航也と分かれた2人は駐車場に向かう。

職員駐車場まで職員専用通路を通るが、通路の出入口は職員カードがないと開かない。

華は何だか特別な気持ちになる。

警備員のおじさんに軽く会釈をして、翔太の車に乗り込む。

「よし、さぁ帰ろうか。気分悪くなったら教えて?」

「うん」

それから華の実家に寄り、華が荷物の準備をしている間、翔太は両親とコーヒーを飲みながら待っている。

時より両親と翔太の笑い声が聞こえる。

華はこれから始まる同棲生活に胸驚かせながら、準備を進める。

嫁に行く人ってこんな気分なのかな…(笑)

「準備できたよ!」

「華、ちゃんと翔太君の言う事聞くんだぞ」
「どうか華をよろしく頼みます」

お父さんに続けて、お母さんもお辞儀をする。

「やだ、結婚じゃないんだから大袈裟な…」

華はすかさずツッコミをいれる。

「いや、華、それくらいご両親は華のことを大切に育ててくれた証拠だよ。僕で良ければ華のこと全力でサポートしていきます。こちらこそ、宜しくお願いします」

翔太は華に軽く説教して、両親に深く頭を下げた。

(まったく、翔太の印象爆上がりじゃん(笑))

それから実家で夕飯をご馳走になって、翔太のマンションに向かった。

退院初日でバタバタして疲れた…。

「華、先にお風呂に入っておいで」

翔太の部屋には何度が来ているがお泊りは初めて。

「うん」

それからお風呂から出て、翔太を待っている間にソファで寝てしまった。

「はな?華?」

翔太の優しい声で目覚める。

「ベッド行こう?体調悪くない?」

頷く華を見て、華を抱いてベッドに寝かせる。

「ん?少し微熱があるかな?」

体温計をすべり込ませ測ると、37.2℃。

華が寝たのを確認してから寝室を出て、一応航也に報告する。

「もしもし、航也?」

「もしもし、翔太?どうした?」

「夜に悪いな。あれから、華の実家に寄って夕飯ご馳走になってからマンションに来たんだけど、華が微熱でさ。一応航也に報告しとこうと思って」

「何度?今、華は?」

「37.2だった。お風呂入ってからすぐ寝たんだけどな」

「息はどんな?」

「特に苦しそうとかはないよ。スヤスヤ眠ってる」

「じゃあ、様子見てていいよ。もし急激に発熱したら教えて?退院初日だからな、ある程度は仕方ないけどな」

「あぁ、わかった。仕事中悪かったな。お前も早く帰れよ?」

「あぁ、じゃあな」

それから華は朝までぐっすりだった。

「華おはよ。具合は?」

「おはよう。ん、大丈夫みたい」

「よかったな。まだあまり無理するなよ。航也が高校は来週から行くようにって言ってたから、それまで家でゆっくりしてな?家事しなくていいからな」

翔太は色々気にかけてくれる。

それから朝ご飯を2人で食べて、翔太は出勤していった。
〜華が退院した数日後〜

病状が落ち着いている美優は航也の許可が出れば、当直明けの航也と一緒に帰る予定。

航也がいつものように診察をする。

「よし胸の音聞くよ。…ん、喘鳴もないね、熱もないし、いいね。よし、帰ろうか。看護師さんから薬受け取った?」

「うん、持ったよ!早く行こっ!」

「わかった、わかった。あんまりはしゃ…」

「はしゃがないよ!わかってるって!」

「全く、お前は…」

航也はそう言いながらも、はしゃぐ美優が久しぶりに見れて、顔がほころぶ。

いつものようにナースステーションに挨拶をして、航也の車に乗る。

「はぁ〜、無事に病院脱出できた!!」

「ハハハ、脱出ね(笑)さっ、帰るよ!ただし、無茶はしない約束ね、いい?少しでも変だと思ったら我慢せずに言うんだぞ?」

「うん!わかったよ!それより、どこ行くの??」

「そうだね、まずは美優が行きたがってた海に行こうか?」

「やったー!嬉しい!!」

「だから、着くまで寝てな」

久しぶりの外泊でテンションの高い美優だが、無事に3泊4日を終えるためには、無理をさせないことが何より大事。

興奮していた美優だったが、しばらくするとスヤスヤ眠り始める。

航也は信号で止まると、寝ている美優の手首を掴み脈を確認する。

(よし、大丈夫そうだな)


〜1時間後〜

「みゆ?美優?着いたよ」

「ん?着いた…?」

「フフ、着いたよ。外見てごらん」

美優が窓の外を見つめると、太陽に照らされて、キラキラ光る海が目に飛び込んできた。

「わぁ、海だぁ!!やっと見れた〜!!」

子供のように喜ぶ美優を見て、航也も笑みがこぼれる。

「少し外散歩しようか?」

「え?外出ていいの?」

キョトンとした顔で聞いてくる美優。

「ハハハ、いいよ!外も暑いくらいだし、体調も落ち着いてるしな!」

それから2人はゆっくりと砂浜を歩く。

航也はそっと美優の手を繋ぐ。

美優の顔が赤くなるのがわかった。

「美優、なに照れてんの?」

「べ、べつに照れてないもん」

そんな美優が可愛く愛おしい。航也は気付くと、人目もはばからずに美優を抱きしめる。

「ちょっ、急に恥ずかしいよ〜」

「美優、かわいい。美優の笑顔ずっと守っていきたい。辛い治療もよく頑張ってきたな、本当にえらいよ」

「うん、航也…ありがとう。グスン…大好き」

「フフ、俺もだよ。なにも泣くことないだろ?」

2人は思い出の海を前に甘い時間を過ごす。

美優はこれ以上ない幸せを噛みしめる。

近くの階段に座ってしばらく海を眺めていた。

でも体は正直で、徐々に体から力が抜けていって、自然と航也に体重を預けてしまう。

「ん?美優どうした?ちょっと疲れたか?」

「うぅん、大丈夫。疲れてないよ」

目を逸らす美優。

(自覚ありだな(笑))

「さっ、車に戻ろう。今日は初日だから無理はしないよ!」

「え、やだ…もう少しだけ…」

「翔太と華が明日お祝いするから、家においでって言ってくれてるんだよ。今無理して行けなくなったら嫌だろ?」

「うん…わかった」

ショボンとした美優。

「かわりに帰りに美味しいケーキ買って帰ろう?」

「ケーキ?!うん、やった!」

「ハハハ、単純なやつだな!」

しばらく車を走らせるとまたウトウトし始める美優。寝ないように必死に目を開けようとしている。

「もう寝な?ケーキ屋着いたら起こすから」

「だいじょぶ…」

そうは言ったものの数分して眠ってしまった。

(やっぱり、まだまだ疲れやすいな…)

それからケーキを買ってマンションに帰って来た。

美優はケーキ屋からマンションの間もずっと寝ていて、そのままベッドに運ぶ。

幸い熱はないようだ。聴診器をすべり込ませ胸の音を丁寧に聞く。

微かな喘鳴…発作に繋がらないように祈りながら美優を寝かせておく。

(起きたら吸入させないとな…)

航也はコーヒーを入れ、リビングのテーブルにパソコンを開き、仕事を進める。

なかなか休みが取れない医者にとって家にいる時間に仕事を進めておかないと次々に溜まってしまう…


〜2時間後〜

コホ、コホ…

寝室から美優の咳が聞こえる。

(ん?咳出てきたか…)

航也がそっと寝室を覗くと、美優がベッドに座って、吸入器を吸っている所だった。

「あれ、美優起きてたの?おっ、吸入したんだね。えらかったな、1人ですごいじゃん」

航也は美優の頭をクシャっとして隣に座る。

「うん…少し苦しくて咳出てきたから…」

そう言いながら、美優の目がウルウルしている。

それを確認すると、航也の医者スイッチが入り、美優の背中に聴診器を這わせる。

「ゆっくり吸って〜吐いて〜、はい、もう一回、吸って〜吐いて〜…。うん、吸入したから喘鳴落ち着いてるね。でも少し熱あるかな?体温計入れさせてね」 

ピピピ…

「37.5か、美優寒い?」

「うぅん、暑い」

「じゃあ、これ以上は上がらないかな。リビング行ける?」

美優を抱きかかえ、リビングのソファに座らせる。

「美優冷えピタ貼る?気休めだけど」

美優が頷くのを確認すると、航也が冷えピタを貼ってくれた。

「う〜ん、きもち〜」

「そっか、よかった。美優そろそろお腹空かない?買ってきたケーキ食べない?」

「うん、食べる」

「わかった、今紅茶入れるからちょっと待ってね!」

それから美優は紅茶、航也はコーヒーを飲みながら、ケーキを食べ、美味しいひと時を過ごした。

「明日さ、翔太と華がご馳走作ってくれるらしくて、向こうの家にお呼ばれてるんだけど、どう?華の退院祝いと美優の一時退院祝いだってさ!」

「うん!2人に会いたい!!」

「わかったよ。翔太に連絡しとくな」

〜次の日の朝〜
隣で気持ちよさそうに眠る美優を見てホッとする。

翔太と華の住む家は同じマンションにあるから、時間までゆっくり2人で過ごすことが出来る。

「みゆ、美優、おはよう」

美優は航也の呼び掛けに、目をこすりながら起きる。

「航也?おはよ〜」

「良く眠れたみたいでよかった」

「う〜ん」

まだ眠たそうな声がたまらなくかわいい。

「ゆっくり起きておいで」

航也は先にベッドから出て、美優のためにホットミルクを作る。

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