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「俺、塩見。塩見健太、これから宜しく」

「私は石黒春菜。嶋原、今日から宜しくね」

 再び記憶がリセットされた嶋原君に、二人はいつものように声をかける。

「こちらこそ宜しく。声かけてくれて、ありがとう」

 とっていた授業ノートを石黒さんが渡し、嶋原君はお礼を言って目を落とす。

「あぁ、また花火大会の告白シーン、リプレイしたい」

「それ、毎日言ってるね。もう付き合ってるんだから、いいじゃん」

「だって、本当にロマンチックだったんだもん。花火も綺麗だったし」

 すぐ近くでクラスメイトが、うっとりした表情で彼氏の話をする。

「……花火」

 聞こえていたのか、ポツリ呟いた嶋原君は、きっと花火大会へ行ったことがない。

 私達第一種の人間が当たり前のように見れる景色を、雨人の嶋原君は見れない。

「嶋原、花火気になるの?」

 敏感に反応した石黒さんが、首を傾げる。

「だったらしない? 花火」

「どうやってするんだよ」