自分も後を追うと、びしょ濡れの嶋原君に、持っていたタオルを手渡す。

「ごめん、ありがとう」

 ここに、嶋原君がいる。

 でももう、嶋原君は何も覚えていない。

「恵口何?」

「え?」

「名前」

「あ……希花。希望の希に、花って書く」

 名前がどうしたのだろう、と思っていると、濡れた嶋原君は、横目で見て微かに笑った。

「いい名前だね」

 嶋原君の声と、雨の音と、時折車の通る音がする。

 友達だと言った私を追い払うことなく、嶋原君は私の隣に腰掛ける。

「この間、私、嶋原君のお爺さんの研究所に行ってきたの」

「そうなんだ」

「嶋原君のお母さんのこと……聞いた」

 人の事情に勝手に突っ込むな、と言われるのを覚悟で口にしてみる。