「それって、昔からなんですか」
「あぁ、あれは6歳だったね。空也の幼稚園の卒業式だった。空也の母親の病気が急変して、この世を去ってしまったんだ」
「えっ……」
突然言われた知らぬ過去に、私は麦茶を持ったまま固まる。
「元々は他の雨人と同じように、ただ消失しているだけだったのに、母の死がきっかけで、空也は記憶をなくすようになった」
「どうしてそんな」
「最初のうちはね、友達だけじゃなくて、家族の記憶も失って大変だったよ。あの時がピークだったかな」
感情の起伏が激しくなく、いつも冷静そうな嶋原君の、暗い過去。
「でも、徐々に症状は良くなっていって、今は友達だけ。……って言っても、それでも大きな問題を抱えたままだけれどね」