一方で、恵口は二人に連れられるものの、ぎこちない笑顔をしており、塩見や石黒は気付いているのか。それとも気にしているのは俺一人なのか。
「……綺麗」
前を行く恵口は、次はピンクにライトアップされた水槽を泳ぐ、小さなクラゲの群れに見入っている。
「綺麗だね」
隣に立って言うと、恵口は一瞬俺の方に視線をやって、再び水槽を眺める。
「嶋原君は……」
「ん?」
「嶋原君は、記憶が消えるって、怖くないの」
「そりゃ、怖いよ」
怖くない人なんて、きっといない。
「でも、どうにもできないから、受け入れるしかない」
どんなに嫌だと駄々をこねても、足掻いても、逃げられぬ宿命。
「家の近くに嶋原研究所、っていう研究所があって、そこで、祖父が雨人に関する研究を行っててさ」
雨人の脳細胞で起きた、突然変異を元に戻すために研究をしていることを言うと、恵口は今日初めて俺に向き直った。