歩き出した嶋原君につられ、私も隣をトボトボ歩き出す。

「どうやって学校に来てる? 家って、どこ?」

「校門から西に五分くらい。歩いて来てる」

「俺も徒歩通学。西に七、八分くらい」

 ちょうど良かった、と言う嶋原君はそれ以上は何も言わずに校門を出た。

 パラパラ雨の音と、ピシャピシャ水溜まりを弾く足音だけが聞こえる、帰り道。

 チラリ横を見上げると、記憶を失った嶋原君は、静かな瞳で前を向いている。

 朝、おはようと声をかけスルーされた時は、一瞬嫌われたのかと思った。

 でも、違った。嶋原君は、私の想像以上に大きな事情を抱えていたのだ。

「あの家」

 やがて見えてきた一軒家を指差すと、嶋原君は、大きな家、と感心するように呟く。

「俺、この家のすぐ近所に住んでる。ってことは、もしかして小中一緒だったってこと?」

「いや、それは……」

 どうやら恵口さんの家は、嶋原君と同じ校区内にあるようだが、残念ながら私は知らない。