「待って」

 私は嶋原君のブラウスの裾を握ると、自分の傘を彼に差し出し、雨の中走りだした。

 以前逆のことをしてもらい、これは良い機会だ、恩返しをしようと思ったからである。

 それなのに、雨の中走りだしてすぐ、後ろからバシャバシャ足音が聞こえてきて、グイッと腕を引っ張られてしまった。

「何してんの」

「……嶋原君」

「自分が濡れるじゃん。俺は大丈夫だから」

 傘の押し合いになり、嶋原君は譲ろうとしないが、私も譲るに譲れなくなってしまう。

 すると、ふぅ、と息をついた嶋原君は、傘を受け取ると、二人の真ん中に傘の柄を持ってきた。

「一緒に帰ろう」

「……え」

「送る。それで、その後この傘、貸してほしい」