様子を伺うに、塩見君と石黒さん以外は、誰も嶋原君に声をかけていないよう。

 皆、最初から思い出が消えてしまうと分かっている嶋原君とは、近付きたくないのだろうか。

 嶋原君は嶋原君で、割り切っているのか、自ら輪に入ろうとしない。

「ごめん、教科書忘れたっぽい」

 しかし、古典の授業の五分前、嶋原君は一緒に見せてくれないか、と言ってきて、私達は机をくっ付ける。

 五分後始まった授業、嶋原君は石黒さんから貰った一週間分の授業ノートを見ながら、講義を受ける。

 そんな中、嶋原君が何やらノートの切れ端を渡してきて、紙を見ると……。

“俺達、友達だった?”

 書いてある文面を見て、私も切れ端にペンを走らせる。

“ちょっと、喋ってたくらい”

 友達の記憶が消えているのならば、嶋原君は私が転校してきたことも覚えていないはず、私は元々いたクラスメイトだと思われているのかも。

“何か重要なことがあってたら、教えてほしい”

“特に、私からは……”

 記憶が消えるとは、どのような感覚なのだろう。

 分かって過ごす日々、迎える晴れの日、嶋原君はどんな気持ちなのだろう。