私は石黒さんの言葉を噛み砕くので必死で、教室に戻るとリセットされた嶋原君を横目で見る。
「私のこと……分からないんだよね」
小声で言うと、嶋原君はこちらに向き直って、頭を下げる。
「ごめん、分からない。俺、あっちの世界から帰って来ると、記憶がなくなるみたいなんだ」
「……そっか」
積み上げてきたものが、いとも簡単に壊されてしまう。
私と嶋原君は仲が良いわけではないが、それでも交わした言葉がゼロになってしまった、と思うと悲しくなってしまった。
人に深入りして、大事な人を作りたくないと思っているはずなのに、これはこれでとても寂しい。