小走りに向かい、さっとお財布を取って外へ出ろうと思ったのだが、教室に入ってすぐの所で、思わぬ光景にバッタリ出くわしてしまった。

「えっ」

 教壇の隅で、誰かが蹲っているではないか。

 近付くと男子生徒のようで、うっ……と、苦しげな声を発しながら呼吸を乱していた。

 そしてそれが一体誰なのかは、彼が顔を上げた瞬間に察した。

「嶋原君」

 ──嶋原君の後ろにある窓から見える、雨の止んだ曇り空。

 厚い雲間から、チラチラ太陽が見え隠れしている。

「嶋原君」

 名前を呼んでも、嶋原君は苦し気な表情をしたまま、反応してくれない。

 さっきまであんなに俊敏に動いていたのに、今日の予報は晴れだった?

 A街に来てからは雨が当たり前になっていて、天気予報など見ていなかった。

「嶋原君っ……」