しかし、嬉しいな、楽しいな、そういう感情をどこかで取り戻したいと思っている自分がいても、新しい環境に来ても、その一歩を中々踏み出せないでいた。
──っと、椅子の上に置いていた水筒に手を伸ばそうとしていると、誰かの指に当たって、すぐに引っ込める。
隣を見ると、いつの間にか座っていた嶋原君と目が合って、私は言葉に詰まる。
嶋原君は口数が少なくても、石黒さんや塩見君と仲が良いようで、彼等といる時は少しばかり笑顔を見せていた。
「恵口って、ボール避けるの上手いよな」
「いや、怖いから反射的に」
「塩見が、恵口のこと、守ってあげたいって言ってたよ」
あいつ、恵口のこと良く思っているみたい、なんて言う嶋原君に顔を赤くするものの、嶋原君はからかう様子はない。
「塩見は女好きだけど、それはキャラで、実際はそんなことないから」
「あ……そうなんだ」
「だから、いいんじゃない?」
──とは、言われても……。