~恵口希花《えぐち きか》~

 白いミニバンが、高速を南に走る。

 私は後部座席に座りながら、緊張で自分の両手を握り締めていた。

「希花ちゃん、今日から宜しくね」

「こちらこそ、宜しくお願いします」

「やっと一緒に暮らせるわね」

 助手席に座る、恵口家のおばさんが、後ろを振り返って優しい笑みを浮かべる。

「何でも遠慮せず、自分の家だと思っていいからね」

 運転をしているおじさんも、バックミラーで私と目が合うと、眼鏡の奥の瞳を細める。

 とうとう今日から私は、葉山から恵口へと、苗字が変わる。