「恵口も、雨は嫌い?」
「うん、大嫌い」
──即答された瞬間、沈黙になり数秒後。
恵口はまずいことを言ってしまった、との如く、急に慌てふためき始めた。
「ごめんっ、嫌いって、そんなつもりは」
「いいよ、好きって人の方が珍しいだろうし」
「いや、本当に……ごめん」
「ん、大丈夫」
雨模様しか知らず、水を受けて生きている魚のような自分のこと、俺は好きではなかった。
心の奥底で、普通の人間に生まれたかった、と何度思ったことか。
俺の両親は第一種の父親と、第三種の雨人の母。兄妹は中学二年になる第一種の弟が一人いる。
母は俺が幼き頃に重い病気で他界しており、以後はマンションで男三人暮らし。
弟の隼人《はやと》は卓球部の部活動が忙しく、父は俺達を食べさせていくために毎夜遅くまで働いている。