恵口が転校してきて数日、俺は微かに笑う恵口を何度か見かけた。

 でも、それは本当の笑顔ではなく、取り繕ったような、その場限りの笑顔に感じるのは俺だけだろうか。

「血、大分止まったみたい」

 血の付いたティッシュで鼻をチョンチョン拭きながら、恵口はほんのり顔を赤くしている。

「今、凄い不細工だと思う……」

「俺のせい」

「いやっ……違う。嶋原君のこと、責めてるんじゃなくて」

 “雨人”と言うと、面白がったり、はたまた軽蔑している人間も多いのだが、恵口は俺が雨人でも、何も聞いてこない。触れようともしない。

「恵口が前住んでた街は、どんな街だった?」

「どんな街……普通の街だったよ」

「雨、降ってないんだよな」

「うん、そう……だね」

 俺は晴れた空を見たことがない。

 雲一つない清々しい青空も、もぎたての林檎のような夕日も、夢のある満点の星空も、輝かしい大きな虹も。

 それらは写真や映像でしか感じ取ることができない、遠い、遠いもの。