~恵口希花~
私の名前は、希花。
希望の花、と書いて、希花。希望に満ち溢れる花のように、誰からも愛される、愛らしい人になって欲しいから、と両親から貰った初めての名前のプレゼントだ。
その名前を胸に、今日も前を向いて、生きていく。
「希花、本当に大丈夫?」
「うん、ここへはいつか来たかったから」
隣の座席には空也君が座っていて、私達は坂を登るバスに揺られている。
空也君がA街に再び姿を現して、七ヶ月。
学校の夏休みに入ったお盆前に、私は久しぶりにA街に帰って来ており、空也君とある場所に向かっていた。
バスはグングン山道上っていき、空也君はギュッと私の左手を握ってくれている。
──そして、その場所を、私は無事に通り過ぎることができたのだ。
ここは、葉山家をバラバラにした、事故現場。
私は事故を受け止めて、次のステップに進もう、と空也君とあの家族の思い出のある展望台へと向かっていた。