「傘、ないの?」
「え? ……あ、うん。ここに置いてたはずなんだけれど」
「何色?」
「オレンジ」
「探す」
一言告げると、嶋原君はもう一度私のクラスの傘立てを探し始め、オレンジ色の傘がある度に私にこれかと尋ねてくる。
しかし、やはり私の傘は見つからず、諦めようとしていると、嶋原君が持っていた紺色の傘を差し出してきた。
「これ貸す」
「……え、でも」
「俺、濡れても平気だから。じゃ」
嶋原君は一方的に言うと、鞄を胸に抱いて雨の中走りだしてしまった。
取り残された私は、嶋原君の後ろ姿が小さくなってから、彼の紺色の傘に目を落とした。
──いいのに……。